歯と口腔系疾患 TOOTH

歯周病の概要 OVERVIEW

歯周病とは、細菌感染によって起こる感染症です。口腔内の歯周病菌が歯の周り(歯周組織)に炎症を起こし、歯ぐきの炎症(歯肉炎)や、歯を支える骨(歯槽骨)が壊れてしまう原因となります。歯周病は何となく高齢動物の病気と思いがちですが、

  • ホームデンタルケアをしていない小型犬は9ヶ月齢でも歯周病になる

  • 犬の80%、猫の70%が2歳までに歯周病になる

  • 5歳以上の犬のほとんどが歯周病になる

といった報告もあります。

CAUSE 歯周病の主な原因

犬と猫の口の環境

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    Enzyme in Saliva 唾液中の酵素

    口の中のでんぷんは、酵素(アミラーゼ)により分解され、糖ができます。糖は口腔内細菌に利用され、酸が発生します。ヒトに比べ、犬と猫の唾液中にはアミラーゼが少ないため、酸ができにくく、口の中はアルカリ性です(ヒトは中性)。

  2. 02

    pH of Saliva 唾液のpH

    犬と猫のお口の中のアルカリ性の環境では、歯石ができやすく、歯周病菌が増えやすくなってしまいます。その一方で、酸が少ないため虫歯(う蝕)は非常にまれです。

  3. 03

    Plaque and Tartar プラーク(歯垢)と歯石

    プラーク

    歯の表面に付いた細菌が増殖したものです。つまり、プラークは食べカスではなく、細菌のかたまりということになります。このプラーク(細菌)が歯周病の原因となり、様々な症状を引き起こします。

    歯石

    プラークが唾液中のカルシウムなどにより石灰化して固くなったものです。歯石になってしまうと、歯ブラシでは落とすことはできません。歯石の表面はザラザラしているため、この上にさらにプラークが付着します。


    歯石ができるまで
    ヒト

    2週間

    3〜5日間

    7日間

    つまり、ヒトと比較し犬と猫は歯周病に罹患しやすいと言えます。

診断について

まず初めに問診や身体検査、口腔内検査行います。しかし、歯周病は、顎の骨を破壊してしまう病気です。そのため、見た目だけで歯周病の診断と重症度の評価をしてはいけません(お口の中がキレイ≠歯周病でない)。大切な検査は、歯科X線検査とプロービングです。特に歯科X線検査は得られる情報が非常に多く、歯周病の診断に必要不可欠な検査です。

  • 歯科X線検査

    歯、歯根、歯槽骨(歯を支えている部分の顎の骨)、歯根膜(歯と歯槽骨をつなぐ靱帯)など評価します。

  • プロービング検査

    歯周プローブを使用し、歯周ポケットの深さを測ります。歯周病により歯周組織が破壊されると歯周ポケットは深くなります。歯周ポケットが深いほど、歯周病が進行している可能性があります。

治療について

歯周病の治療は重症度(歯周炎の程度)によって異なります。

※横にスクロールしてご覧ください。

スケーリングポリッシング
(歯面研磨)
ルートプレーニングキュレッタージ
(歯肉縁下掻爬)
抜歯
ステージ1
(歯肉炎のみ)

ステージ2
(軽度歯周炎)

ステージ3
(中程度歯周炎)

ステージ4
(重度歯周炎)

  • スケーリング

    ハンドスケーラーや超音波スケーラーを用いて、歯に付着した歯垢や歯石を機械的に除去するために行います。

  • ポリッシング(歯面研磨)

    スケーリングを行ったばかりの歯の表面は、ザラザラしているため歯垢・歯石がつきやすくなってしまいます。そのため、歯の表面を研磨(ポリッシング)し、歯垢・歯石の付着を防ぎます。

  • ルートプレーニング

    深い歯周ポケット内の歯の表面には、スケーリングでは取りきれなかった歯垢・歯石などが残存してしまいます。キュレットという器械や超音波スケーラーを用いて、それらを除去します。

  • キュレッタージ(歯肉縁下掻爬)

    キュレットを用いて歯周ポケット内の不良な歯肉を除去し、歯と歯肉の再付着(歯周ポケットの減少)を目的に行います。

歯周病を放置すると、お口の中だけでなく、全身の様々な臓器に影響を及ぼす可能性も報告されており、慢性腎臓病や心臓病との関連性も報告されています。また、1年に1回の歯周病治療が、犬の死亡リスクを18.3%低下させたという報告もあります。ペットの健康寿命を伸ばすという意味でも、歯周病治療は非常に重要です。

DANGEROUS 無麻酔歯石除去は危険!

どんな飼い主さんでも、ご自身の犬・猫が全身麻酔で歯科処置をすることはとても不安なことだとは思います。しかしながら、ペットサロンなどで行われている、いわゆる『歯石取り』は非常に危険な行為です。犬・猫の歯科処置に全身麻酔が必要なことを解説します。

  • 訓練を受けていないヒトが歯石を除去し、表面のポリッシングや歯磨き指導をしないという行為は、歯の表面に細かい凹凸を作ってしまい、歯垢の付きやすい歯を作ってしまいます。

  • 歯科器具の多くは先端が鋭利になっています。歯科処置には繊細な力加減と動きが必要で、万が一動物が動いてしまうと、歯・歯肉・血管・神経・唾液腺を傷つける可能性があります。

  • 歯周ポケットができているところは、まさに歯周病の進行の最前線です。この歯周ポケットを清浄化しなければ歯周病は放置されていのと同じです。この歯周ポケットの処置は痛いため、ペットを無理やり押さえつけ、無麻酔で歯石を取ることはペットに強い恐怖と苦痛を与えることになってしまいます。

以上の理由により、無麻酔での歯石除去は絶対にやめましょう。

予防歯科 PREVENTIVE

歯周病予防で1番大切なことは、毎日の歯ブラシに他なりません。歯周ポケットや歯と歯肉の境目をケアすることがポイントです。また、3〜6ヶ月ごとに動物病院で歯科検診を受けることも重要です。しかしながら、歯みがきの重要性はわかっていても…

  • まず口をさわることができない、噛まれてしまう

  • 口にさわることはできるけど歯ブラシはできない、イヤイヤしてしまう

  • 歯ブラシを見ただけで逃げてしまう

といった方も多いのではないでしょうか。これにより、おうちでの歯みがきができるようになるポイントと3ステップをお伝えします。

ポイント
口が痛いと口を触らせてくれない

歯周病があり、口が痛いと絶対に上手くいきません。まずは、歯周病の治療をしましょう。

歯みがきに良い印象をつける

歯みがきが楽しいと教える。1番好きなオヤツを使いましょう。

THREE STEP 予防歯科のための3ステップ

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    ALL TEETH 口をさわれる、すべての歯を見せてくれる

    おやつを食べさせながら口をさわれる

    いきなり歯ブラシは使いません。丸めた手の中におやつを入れます。

    • 少しずつおやつを食べている間に、反対の手で口を触さわります。

    • 徐々にすべての歯を見れるようにします。

    無理強いせず、嫌がりそうになったらやめましょう。

    おやつなしでも口をさわれる

    おやつを見せ、「待て」をして、おやつを握り込みます。

    • ほめながら反対の手で唇をめくる

    • おやつをあげる

    ※口をさわった時に、頭を引いた時はおやつをあげません。頭を引くとおやつをもらえるとなってしまいます。最初は0.5秒くらいの一瞬口をさわるだけにして、徐々に長くしていきます。

  2. 02

    GET TO LIKE 歯ブラシを好きになってもらう

    おやつを手に握り込み隠しておきます。歯ブラシを見せたらおやつをあげます。

  3. 03

    WHILE EATING SNACKS おやつを使いながら歯を磨くことができる

    まずは歯ブラシを手前の歯に優しく当て、ステップ2と同じようにしておやつをあげます。慣れてきたらブラシを動かしていきます。歯ブラシの感覚に慣れてきたら、徐々に奥の歯も磨いていきます。

ポイントを押さえながら、これらのステップを短時間でも毎日行うことで、最終的にはおやつがなくても歯ブラシができるようになってくれるはずです。上手く歯ブラシができるようになれば、お口の健康を守ってあげることができます。さらに、歯みがきがスキンシップの場になり、ペットと飼い主の関係をより良くしてくれるのではないでしょうか。少しずつおうちでの歯みがきを始めてみましょう!

TEL 048-626-6526 ※当院は予約制です
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