慢性腎臓病 KIDNEY DISEASE
慢性腎臓病とは、何らかの原因により、慢性的(3ヶ月以上)に腎臓が障害を受け、進行性に腎臓の機能が失われていく疾患です。慢性腎臓病は5〜6歳以上の犬・猫では一般的な病気で、高齢の犬の10%、猫の35%が罹患しているという報告もあります。慢性腎臓病の多くは残念ながら治癒することはなく、病気の初期にはほとんど症状を認めないため、早期発見・早期治療介入が最も重要となります。
症状
初期の慢性腎臓病では無症状なことが多く、進行にともない
脱水
嘔吐/下痢
口臭
痩せてきた
元気がない
ごはんを食べる量が減った
水をたくさん飲む、おしっこの量が多い(多飲多尿)
などの症状が認められます。
病期(ステージ)の分類
病期は、国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)のガイドラインに基づいて定義されることが一般的で、
血中クレアチン濃度
SDMA濃度
血圧
尿蛋白
により、4期に分類されます。
診断
ステージ1〜2前期
以下の1項目以上満たすとき
参考基準値内でのクレアチニン・SDMAの上昇
持続的なSDMAの上昇
画像検査における腎臓の異常
持続的な蛋白尿
ステージ2後期〜4
以下の両方を満たすとき
クレアチニンとSDMAの上昇
尿比重(尿の希釈・濃縮の指標)の低下
ステージング
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ステージ | クレアチニン濃度(mg/dL) | SDMA(μg/dL) | 症状 | ||
---|---|---|---|---|---|
犬 | 猫 | 犬 | 猫 | ||
1 | <1.4 | <1.6 | <18 | <18 | 一般的に無症状 |
2 | 1.4~2.8 | 1.6~2.8 | 18~35 | 18~25 | 無症状〜軽度の症状 |
3 | 2.9~5.0 | 2.9~5.0 | 36~54 | 26~38 | 嘔吐、食欲不振、体重減少、貧血など様々 |
4 | >5.0 | >5.0 | >54 | >38 | 症状も重度、QOLの著しい低下 |
サブステージング
ステージングだけでなく、全身性高血圧と蛋白尿の有無による評価をすることが、内科管理を行っていくうえでも非常に重要です。
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収縮期(最高) 血圧(mmHg) | 評価 | 臓器障害のリスク |
---|---|---|
<140 | 正常 | なし |
140~159 | 前高血圧/グレーゾーン | 低 |
160~179 | 高血圧 | 中 |
≧180 | 重度高血圧 | 高 |
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UPC(尿蛋白/クレアチニン比) | 評価 | |
---|---|---|
犬 | 猫 | |
<0.2 | <0.2 | 蛋白尿なし |
140~159 | 前高血圧/グレーゾーン | 低 |
0.2~0.5 | 0.2~0.4 | グレーゾーン/再検査 |
>0.5 | >0.4 | 蛋白尿あり |
TREATMENT 治療
ステージ1
血中クレアチニン濃度の上昇はなく、臨床症状(多飲多尿、体重減少など)を認めることはまれです。以下のポイントに沿って治療管理していきます。
腎臓以外に原因があれば治療
(脱水や尿管結石、心不全など)腎盂腎炎(細菌感染により腎臓に炎症を起こしている状態)や尿石症を治療
腎毒性のある薬剤の休薬
血圧・UPCを測定
なお、これらはすべてのステージにおいて共通のポイントとなります。
高血圧の管理
血圧降下剤を使用し、収縮期(最高)血圧が120〜160mmHgに維持することを目標とします。
犬
以下の薬剤を単独で、もしくは併用して使用します
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬
カルシウムチャネル阻害薬
アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)猫
カルシウムチャネル阻害薬
などの症状が認められます。
蛋白尿の管理
蛋白尿の原因疾患を治療
腎臓の生検を検討
ACE阻害薬やARB、腎臓病療法食を開始
ステージ2
腎臓療法食
(リンが制限された食事への変更を検討します。それでも、血液検査で高リン血症を認める場合は、リン吸着剤を使用します。低カリウム血症の治療(猫)
血液検査で血中カリウム濃度が低い場合は、内服でカリウムを補充します。
ステージ3
基本的にはステージ2の治療に準じますが、リンの制限においてより厳密な管理が必要になります。また、以下の治療を必要に応じて追加します。
腎性貧血の治療
貧血はQOLに影響を与えるため、治療に介入します。主に、ダルベポエチンという製剤を使用します。嘔吐、悪心、食欲不振の治療
制吐剤や食欲増進剤を用いて、積極的に治療します。脱水の補正
点滴を行います。
ステージ4
ステージ3の治療に準じます。
透析治療や腎移植も考慮されます。近年はペットの高齢化にともない、腎臓病は増加傾向にあります。腎臓病は早期に発見することで、進行を遅らせることができる可能性もあるため、何よりも定期的な健康診断が重要になる病気のひとつです。